音節リズム
alimの大きな特徴に、母音の数を核としたリズムを持っていることが挙げられる。より正確には、「母音ひとつひとつがほぼ等間隔で出現するリズム」を持っているということである。
これは中国語の発音を想像してもらえるとわかりやすい。都市部の電車の中で聞こえてくる中国語の案内は、「コーン/チャーン/フォーン/グー/ノーン(適当)」といった感じで、一定のリズムを刻んだ音として聞こえるのではないかと思う。
フランス語でも同様である。最近Googleの広告で出てきた「めっちゃ素敵ですね」のフランス語 “C’est vraiment sympa.” は、「セ/vレ/モン/サン/パ」のように5拍分のリズムを刻んで聞こえるはずである。これもまた、母音が等間隔で出現する例である。
ちなみに、このような「母音が等間隔に出現するリズム」は英語やドイツ語には見られない。英語やドイツ語は、強勢(アクセントの強い位置)がほぼ等しいリズムで現れるという、中国語などとは全く異なる体系によってリズムが形成されているためである。日本人には、中国語やフランス語、そしてalimのようなリズムの方がはるかに馴染みやすいだろう。
日本語話者が注意すべきなのは、子音「ん」がひとつのリズムを形成したり、長い母音が短い母音の2倍の時間を占有したりしないということである。例えば「新大阪」をalim風に発音すると「しん/おー/さ/か」というように4拍に区切り、各部分をほぼ等しい時間で発音するが、日本語では「し/ん/お/お/さ/か」のように6拍に区切る。日本語はこのような独自のリズムを持っており、それと「母音が等間隔に出現するリズム」との差は、alimなどに限らず、フランス語学習などでも意識されるべきものである。
音節内・音節間で生じる音の変化
日本語ではやや想像しづらいが、alimでは、特定の子音・母音が連続する際に、その音が変化する現象が発生する。
これは多くの言語において一般的に見られる現象で、たとえば英語の”tense”という単語のようにnとsが連続する場合には、「テンス(tens)」ではなく「テンツ(tents)」のように、間にtを挟んで発音されることが多い。このように、特定の音のつながりが発生した際の音の「変化」を知ることは、その言語の発音を理解するうえで重要になる場合がある。
以下は「Phonology I」を読んだ方向けの解説になるので、先にそちらを一読することを推奨する。
主に音節内で生じる変化
- 母音”i”, “e”の後の”x”は必ず硬口蓋化する。すなわち、ax, oxなどが「アフ」「オフ」のように発音されるのに対し、ixやexは「イヒ」「エヒ」のように発音される。ドイツ語の音節末の”ch”においても同様の現象が見られるため、それで調べれば丁寧な解説が出てくる……と思う。
- 母音”i”, “e”の前の”x”もしばしば硬口蓋化する。つまり、「kヒ」「kへ」のような後ではなく、日本語の「ヒ」「ヒェ」とほぼ同じ音になることがある。これは必須ではない。(いわゆる「自由異音」と呼ばれるものにあたるものである。)
- 特に前後に母音”i”, “e”などがついている”r”は、しばしばそり舌音になる。すなわち、巻き舌の「rrrリ」ではなく、日本語とほぼ同様の「リ」の音になる。(巻き舌のrと日本語のrも「自由異音」の関係にあり、基本的にはどちらで発音しても同じ音として認識される。)
主に音節間で生じる変化
- 末子音g, j, d, bの後に子音hが出現する場合、それらの末子音とhをあわせてそれぞれk, c, t, pのように発音される。
- 末子音g, j, dの後に子音(’)が出現する場合、それらの末子音と(’)をあわせてそれぞれk’, c’, t’のように発音される。(話者によってはb + ‘ の組み合わせも両唇放出音p’として実現する。)
- 末子音nの後に子音s, shが出現する場合、その間に子音tが出現する。また、nの後にzが出現する場合、その間にdが出現する。
- 末子音ngの後に子音x, hが出現する場合、x, hの区別は曖昧になり、どちらもngkあるいはngk + xのように発音される。
- 末子音lの後にrが出現する場合、rはそり舌音(日本語のrと同じ)になる。また非常に弱い音になる。
- 末子音nの後にrが出現する場合、rはしばしばdとして発音され、同時にrとdとの区別が曖昧になる。
- 末子音sの後にzが続くとき、sは消滅する。
- 末子音f, xの後にwが続くとき、f, xの区別は曖昧になり、wが無声化する。(→参照)これは多くの場合、先述のxの硬口蓋化よりも優先される。